口角からあごに向かって伸びる「マリオネットライン」。
この線は年齢を感じさせ、機嫌が悪いわけではないのに、なんとなく疲れているような印象を与えます。鏡を見るたびに気になり、高価な美容液や美容医療を検討する方もいらっしゃるかもしれません。
マリオネットラインは、加齢による皮膚の変化、皮下脂肪の移動、骨格、表情筋の働き、紫外線など、さまざまな要素が関係して深くなります。
つまり、口元の見え方は、口元の皮膚だけで決まっているわけではないということです。

頭を支える姿勢が、口元にも影響する
顔の皮膚は、その下にある骨や脂肪、筋肉に支えられています。中でも筋肉の使われ方に関係してくるのは、頭の位置、あごの位置、咬み方、舌の位置です。
私たちの頭は、成人でおよそ4〜6kgあるといわれています。かなり重いものを、細い首の上で一日中支えています。
その頭が体の真上にバランスよく乗っていればよいのですが、スマートフォンやパソコンを見る時間が長くなると、頭は少しずつ前へ出やすくなります。
ほんの少しうつむくだけでも、首や肩だけでなく、下あごの位置や口の周りの筋肉の使い方まで変わります。
つまり、姿勢は顔の印象とも無関係ではないと言えます。
頭が傾くと、あごの位置も変わる
試しに、まっすぐ前を向いた状態で、上下の歯がどこで触れるかを感じてみてください。
次に、頭を上へ向けたり下へ向けたりして、そっと歯を合わせてみましょう。先ほどとまったく同じ感覚でしょうか。
頭の向きが変わると、下あごの安静時の位置や、歯の接触の仕方が変わることに気づくはずです。
つまり姿勢によって、咬みやすい場所や、食べ物を咬むときの動きも変わってくるんです。
いつも片側ばかりで咬む、前かがみの姿勢で食事をする、口をぽかんと開けている。こうした小さな癖も、毎日繰り返されれば、筋肉の使われ方に差が生まれても不思議ではありません。
頭の位置が変われば、あごの位置や動きが変わり、使われる筋肉のバランスにも影響を及ぼします。長い時間をかけて繰り返される身体の使い方は、口元の印象を考えるうえで見逃せない要素の一つなのです。
食いしばりで口元までこわばっていませんか?
姿勢や咬み方とあわせて、もう一つ見直してほしいのが「食いしばり」です。
集中しているとき、緊張しているとき、スマートフォンを見ているとき。気づかないうちに、上下の歯を接触させていないでしょうか。
本来、食事や会話をしていないときの上下の歯は、わずかに離れているのが自然な状態です。それにもかかわらず歯を接触させ続けると、余分な力が入りやすくなります。
ここで注目したいのが、口角下制筋(こうかくかせいきん)です。
口角下制筋は、下あごから口角付近へ伸び、口角を下方向へ引く働きをする表情筋です。不満そうな表情や悲しそうな表情をつくるときにも使われます。

食いしばりと一緒に唇やあごまで力ませる癖があると、口角下制筋を含む口周りの筋肉にも過緊張やこわばりを生じることがあります。
まずは食いしばりに気づいたら、唇は軽く閉じたまま、上下の歯をそっと離す。それだけでも、口元を休ませるきっかけになります。
▶ 過去のブログ:ついつい食いしばってしまう、がんばりやさんのあなたへ
食いしばりに関しては、以前のブログでも詳しく解説していますので参照されてください。
舌は、見えないところで働いています
もう一つ、忘れてはいけないのが舌です。
舌はとても大きく力のある器官です。話す、咬む、飲み込む、呼吸するといった動きに関わるのはもちろん、何もしていないときに「どこに置かれているか」も非常に大切です。
舌の自然な休憩場所は、上あごの中です。
舌先だけでなく、舌全体が上あごにふんわり収まり、唇は軽く閉じ、上下の歯は強く咬みしめず少し離れている。これが、お口が休んでいるときの基本的な状態です。
ところが、口呼吸では舌が低い位置になり、唇やあごの周りの筋肉もたるみがちです。舌が低い位置にあるとあごの下の輪郭に影響し、二重あごにつながることもあります。
頭、あご、舌の位置が変われば、口の周りや首を含めた筋肉の働き方も変わります。その積み重ねが、表情や皮膚のたるみ方、マリオネットラインの「見え方」に影響する可能性は考えられます。
「ずっと良い姿勢を意識する」必要はありません
ここまで読むと、「今日からずっと良い姿勢をとらなければ」と思うかもしれません。
でも、それはとても難しいことです。
そもそも、人は何時間も姿勢を意識し続けることなどできません。無理に胸を張り、肩に力を入れて座っても、疲れてしまえば元に戻ります。
良い姿勢とは、緊張して固めた姿勢ではなく、頭が体の上に無理なく乗り、自然に呼吸できる姿勢です。
必要なのは、頑張り続けることではありません。
ついついやってしまっている悪い習慣を、少しだけ良い習慣に置き換えることです。
今日からできる「習慣の置き換え」
たとえば、スマートフォンを見るたびに顔を下へ落とすのではなく、スマートフォンを少し高い位置へ持ち上げる。
これなら、「姿勢を良くしよう」と考え続けなくても、頭が前へ傾きにくくなります。

パソコンの画面が低ければ、台を置いて目線に近づける。ときどき遠くの景色を眺め、肩甲骨を軽く寄せて深呼吸をする。この程度であれば、無理なくできる小さな工夫です。
お口の姿勢についても、「舌を上げ続けよう」と力む必要はありません。舌の上の唾液を少し吸う感覚にすると、舌が上あごの中に吸い上がるので、そのままにしておく。大切なのは、ふとした瞬間に思い出し、良い状態へ戻すことです。
たとえば、スマートフォンの待ち受け画面や、毎日目にする場所に、リマインダーサインを置いてみましょう。目に入ったときに、次の4つを確認します。
● 頭が体の上に無理なく乗っているかな
● 鼻でゆっくり呼吸しているかな
● 上下の歯を食いしばっていないかな
● 舌は上あごで休んでいるかな

気づいたら、そっと正しい場所へ戻す。それだけです。
忘れないように頑張るのではなく、思い出せる仕組みを生活の中につくっておく。この方法なら、特別な道具も、まとまったトレーニング時間も必要ありません。
▶ TikTokで見る:口の正しい姿勢を思い出すためのリマインダーサイン
当院のTicTokでも、日常生活の中で、唇・歯・舌の正しい位置を自然に思い出すアイデアをご紹介しています。
口角を上げる時間を作ってみる
姿勢やお口の休み方を見直したうえで、短いトレーニングを生活に加えるのもよいでしょう。ここでも大切なのは、頑張ることではなく、無理のない範囲で習慣化することです。
口元の下がりや口角横のもたつきが気になる方にとっては、口角を上へ動かす筋肉に気づくきっかけを与えましょう。
▶ TikTokで見る:口角を上げるトレーニング
口角を無理なく動かすための、短く取り入れやすいトレーニングです。
食いしばって固めるのではなく、力を抜いた状態で柔らかく動かすことが、生き生きとした表情につながります。
▶ TikTokで見る:表情筋を柔らかくし、生き生きとした表情をつくるトレーニング
顔全体の余分な力を抜きながら、表情筋をしなやかに動かす練習です。
簡単だからこそ、毎日の差になる
美容のために何かを始めようとすると、今までやったことのない難しい方法に目が向きがちです。
でも、あなたの体や顔をつくっているのは、毎日無意識に繰り返している小さな動きです。
● スマートフォンを見る姿勢を変える
● 頬杖をやめる
● 食いしばりに気づいたら歯を離す
● 舌の休む場所を思い出す
どれも、ほんの数秒からできることです。
難しい運動を新しく追加するのではなく、今ある習慣の形を少し変えるだけ。だからこそ、続けやすいのです。
マリオネットラインは、小さなサインかもしれません
マリオネットラインは、加齢や骨格、皮膚、脂肪など、さまざまな要因が重なって現れます。姿勢を整えれば必ずなくなるものではありませんし、自然な加齢現象の一つともいえます。
それでも、口元が気になったことをきっかけに、自分の頭の位置、あごの使い方、舌の位置、呼吸、そして食いしばりに目を向けることには大きな意味があります。
マリオネットラインやほうれい線だけを敵にして、線を消すことばかり考えなくてもよいのです。
まずは、あなたがこのブログを読んでいるスマートフォンを少し高く持ち、上下の歯をそっと離すことから。
「良い姿勢を頑張る」のではなく、「悪い習慣を良い習慣に置き換える」。
そして、ときどき口周りの筋肉をやさしく動かし、こわばっているところがあれば、気持ちよい程度にほぐしてみる。
その小さな変化が、口元だけではなく、呼吸や咬み方、首や肩の負担、そして生き生きとした表情を見直すきっかけになるかもしれません。
それが、矯正歯科医からお伝えしたい、いちばん簡単なマリオネットラインとの向き合い方です。












