拡大床装置による矯正について
最近よくお母さん方から「床矯正やっていますか?」という質問を受けることがあります。歯列を拡大することによって「ブラケットをつけることなく矯正治療を完成させることができる?」そうです。そんな良い話があれば、私もブラケットを使う矯正治療をやめています。
ブラケットを使った治療をするには、知識と経験、技術が必要になります。床矯正は、ブラケットを使う技術のない歯科医師によって過大に宣伝広告されているようです。
床矯正で使う拡大床装置の歴史は古く、現在の矯正治療の代表的な装置であるマルチブラケット装置が発明されるより以前から使われていました。昭和40年以前の日本での矯正治療は、拡大床装置による矯正治療が主力でした。床矯正装置は、なにも新しいものではないということです。当時の日本では、ブラケットを使いこなせる矯正医が少なかったために、主な治療方法になっていました。
拡大床装置の目的
拡大床(床矯正装置)の目的は、大きく2つあります。
1.上下顎副径のバランスが著しく悪いとき(もちろん急速拡大装置を使うこともあります)
2.歯列弓を拡大することにより永久歯の並ぶスペースを作るため(もちろん限界があります)
床矯正を勧める一般歯科では、2.の項目にのみに着目しているようです。
われわれ矯正専門医も症例に応じて床矯正装置(拡大床)を使うことがあります。マルチブラケット装置での治療の前段階として使用していきます。なぜなら、床矯正装置を使って、永久歯の並ぶスペースを作ったからといって、永久歯がきれいに並ぶとは限らないからです。また、上下顎のかみ合わせがよくなるものでもありません。
床矯正装置での治療では、二次元的な動きしかできないため、かみ合わせについては、3次元的な動きが行えるマルチブラケット装置を使う必要があります。矯正の治療方法は、患者さん個々によって違ってきますので、すべての症例を床矯正装置で治すことは不可能だと考えています。「床矯正装置」で矯正治療を始める場合には、「床矯正装置」を使用した後、ワイヤーを使う矯正装置も行うのかどうか、担当ドクターに確認する必要があると思います。